#25 伝説のブギーボーダー | 不揃いの林檎たち

#25 伝説のブギーボーダー


 もう夏も終わりですね。毎年この季節になると思い出します。



 小さな貝殻に1つづつ絵を描いて、思い出を砂に埋めていったあの夏の日のことを。





 ・・・嘘です。そんなBzの歌詞みたいなクリスタルエピソードが俺にあるわけがないだろうがスカタン。ま、ホントにそんなことやってたらそっちのほうが怖い気がしますけど。



 と、言うわけで今回はある夏のクリスタルエピソードです。


 皆さん、ボディーボードという代物をご存知でしょうか。足ヒレを付けてでっかいビート板みたいなのに乗る、サーフィンの2軍みたいなやつのことなんですが。

 彼氏がサーファーな女の子がよくやってるアレです。・・・で、何を勘違いしたのか私はソレをやっていました。

 そりゃ私もサーフィンがカッコいいなあと思ってたんですけど、サーフィンの板は高いしそもそも大きすぎて海まで持って行けないし、だいいち日に焼けるのもあんまり好きじゃないんですよね。(何を言ってるんだろう。)

 その点ボディーボードの板は盗品を安く買えたので助かりました。ま、かわりに足ヒレが4千円もして「板より高ェじゃねーかヲイ!!」とずいぶん腹を立てた記憶がありますが。(ごめんなさい、殺してください)

 しかしサーフィンではなくボディーボードを選んだのは正解でした。年に数回しか外に 海に行かない私のような丘ボーダーの場合、サーフィンは板の上に立てるようになるまでに何年かかるかわかりません。

 その点ボディーボードは直進だけならアホでもできるので、初日からヘタはヘタなりに楽しめます。セックスと似てますね。


 ・・・で、これは書くのもイヤなんですが・・・ヘタはヘタなりに独りよがりなセックスをしてればイイものを、調子に乗った私は例のキチガイ 友人3銃士
「ボディーボードって超楽しい。もう毎日でも海に行きたい」とかいう狂った詩を吐いてしまいます。・・・頼むから死んでくれ、昔の自分。

 ここで友人が私を蔑んでくれれば私も目が覚めたと思うんですが、ボードを買いに行ってしまうゴールドセイント3人。類が友を呼んでます。・・・負の連鎖ってのはコレの事ですか?

 しかしそんなものを買うお金は3人にはありません。しかたがないのでオモチャ屋でボードを調達する3人。

 ・・・ボードにはアルファベットで「ブギーボード」と書かれていました・・・

 こうして世にも恐ろしい3人のブギーボーダー(980円・税込)が誕生したのです。


 足ヒレすらなく、ボディーボーダーというよりビート板マスターといった風情でしたが。
 でもまあそれはそれなりに楽しく、直進しかできないトシピコが手をつないだカップルを寸断したり、横に曲がった私が直進しかできないトシピコの上に乗っかって彼がガチで溺れかけたり、今思い出しても早く忘れたい思い出がいっぱいです。


・・・そんな忌まわしい夏が過ぎ、それから3回目の夏を迎えた頃。3人は立派に成長しました。

 トシピコは東京に逝きました。

 竜は草野球の掛け持ちで海どころではありません。

・・・唯一 純さんだけがフィン(足ヒレ)と、最新のラッシュガード(ボード用ウェア・乳首が擦れない。)を身にまとい、私と海にいました。

 もちろん手には伝説のブギーボード。・・・ウェアより先にボード買えよオマエ。


 さて、ところでボードを始めてはや3年目。自慢じゃありませんが、私たちは何一つ成長していませんでした。ボディーボードの腕前も、オツムの中もです。

 しかしテクニックは0点でも度胸は満点。二人とも迷わず沖に出ます。

 サーフィン・ボディーボードというのは波のピーク(崩れ始める所)から滑り(乗り)始めるのですが、遠い沖の方でピークを迎えるような波は当然巨大です。

 そのため自分が狙っている(自分の腕前に合った)サイズの波がピークになるであろうポイントで波を待つので、遠くで大きな波を待っている人ほど自信がある(大波待ち)と思ってかまいません。もっともなかなかそんな波はこないので、それより前でやや大きい波に何度も乗るのが普通ですが。


・・・私たちは目いっぱい沖に出ました。そんな位置取りの仕組みも知らなかったのです。熟練のサーファーすらいないような沖で、プカプカと浮かぶブギーボーダー。

 さすがに波は来ません。手前でイイ具合に立っている波を見ながら、「ちょっと戻ろうか」なんて言い出した時です。


 まるで運命のように、稲村ジェーンその大波はやってきました。


 ブギーボーダーになんとかなるようなサイズじゃありませんでした。私は当然のように波に飲み込まれ、洗濯機の中の靴下みたいになりながらほうほうの体で陸に戻りました。どっちが上か分らなかったのはその時が最初で最後です。

 
 しばらく咳込んで、海水と胃液が混ざったようなのを吐いた後で純ちゃんの事を探しました。
 が、見つかりません。それどころかリーシュコード(ボードと手を繋ぐ命綱の事)が切れたブギーボードが波打ち際に打ち上げられていました・・・

 冗談みたいでした。・・・念のため言っておきますが、すべて事実です。

 この時は本当に新聞の3面記事が頭に浮かびました。「ブギーボーダー、波に巻かれて死亡。」

・・・・笑えません。 



 私は本当に泣きそうになりました。何度も海に向かって
「ジューーーーーン!!」と叫んでみますが、答えなどありません。

 何度その名を呼んだでしょうか。諦めて監視所に向かうその途中、遥か遠くに彼はいました。この時は本当にホッとして、信じてもいない神に感謝しましたね。

 で、咳き込みながら彼が言うには「ヒモが切れて死にそうになってたら、優しいサーファーが助けてくれた」そうで。・・・社会の迷惑です。

 おまけに「さっき叫んでたオマエ見て、大笑いした。一人ハリウッドやったで、オマエ」とのたまいやがりました。私がどれだけ心配したかまるで分かってないようです。一瞬ボウリングの玉(12号)で撲殺してやろうかと思いましたね。

 人を撲殺するのにちょうどいいサイズと重さだと思いませんか?
 

・・・さて、こうして私たちの夏とボディーボードは終わりました。私たちは光GENZIのようにそっとフィンを波打ち際に置いて、いつもの焼肉屋に向かうばかりです。


 海だけが、3年前と変わりませんでした。





 私たちは、海を愛していました。