#1 携帯が死んだ日。 | 不揃いの林檎たち

#1 携帯が死んだ日。


 

 

 

 






 
優しげな風が木々を揺らし、長い雲間から解き放たれた太陽がその存在意義を存分に誇示していた。


 時は五月。 空は高く、僕たちは若かった。

 




   とりあえず、物語のはじまりはこんな日が素敵だ。

 

 











 純「このパチ屋、クーラー効きすぎじゃねえ?」



・・・はい、パチンコ屋です。もう若くもないのに、太陽の存在意義なんて言ってられません。

 


 南国四国、その最南端の五月末ってのは猛暑ですほんと。「今日は夏日か真夏日か」ってカンジなのがデフォルト です。





 で、毎週末のごとく お気に入りのパチ屋でスロットなんぞを嗜んでいる


宿儺(すくな・私)、山純、竜のアレ三人。ちなみにこのパチ屋、家から 90km強。ちょっとした小旅行です。



 この時点で立派なアレなんですが、当たり前のように 月に4~5回しかない日曜日の3~4回をこの店で過ごしていました。

 



  当事の彼等はいったい何を考えていたのでしょうか・・・



 

 もしも21世紀から来たと言い張るネコ型のアレが手に入ったら、パチ屋にいた時間を

ほとんどの子供が裸足で暮らしているという噂の アジアの某国のために使いたいです。

 



 さて、そうしてこの日もスットコなんぞを楽しんでいたんですが 何しろ寒い。


 このしょっぱい出玉ならそりゃ儲けてるんでしょうが(なんでこんな店に通ってたんだろう)、何もそれを冷房温度で還元してほしくはなかったです。

 





 その日は収支もつまらない目に会っていたので(ようするにケツの毛が抜けるほど負けてた)、自然に隣の

山純と「もう帰ろうよ。”焼肉いーじゃん(実名)”にホルモン食いに行こうよ」


 と話がまとまります。







 そうなると問題はもう一人のアレ、運転手・竜 です。

 

 地元草野球リーグでも屈指の強打者として知られるこの大工は 同時に屈指の運転手でもあり 「4番・運転手・松本」 と呼ばれていました。


 



当然彼の最高の友人である私と純も 彼をDH指名していたので、

彼が無一文に負けるまでおうちに帰れません



 


 彼はいくら負けていても最後の一兵(この場合夏目漱石)まで戦いをヤメない猛者で、勝ったら勝ったで

 



「お客さん、いい加減にしないと出玉没収にしますよ」

 
対猛者用モビルスーツ(=ゴツイ店員) が出てくるまで台から離れようとしない 黒百合の戦士


だったのです。







 と、いうことで彼をなんとか説得すべく探していると、トイレ横の休憩コーナーで末期の肺ガン患者のようにうなだれている彼を見つけました。


 


マクドナルドのバイトの月給くらい負けても笑っている竜が、この時間にそんなに負けているとも思えません。

 







「ヲイ、竜ちゃんどうした?」




 サリバン先生のように優しく聞くと、話し出す 4番・ピッチャー・ヘレンケラー  







「Water」「さっきトイレに行って黒ダイヤ(注・ウ○コの事と思われる )してたら、 ”ボチャン”っていうカンジの


ドラスティックな音
がして、ケータイをトイレに落とした音だった・・・」





 ・・・で、そのあとすぐさますくい上げたのだが、水が入ったようで 電源すらマトモに入らない、との事。 なん


とか電話帳のデータだけでも抜き出したいのでauに行こう、と言う。




願ってもない話 気の毒なので「よし行こう」とか答えていると なぜかしきりに感心している純。





「いやあ、さすがは竜ちゃんやで。」





ケータイを便器に落としてヘコんでいるヘレンケラーのドコに感心するところがあるんだ?この無職。





 

「よくケータイと間違えてウンコの方 掴まんかったねえ。さすがは竜ちゃん。」




 との事・・・・(もうツッコむのもしんどい)  で、この後








 竜「いや、 ブツは流して無かった(もうそこには)」

 




 純「(まだ)流してなかったんやろ。よう間違わんかったもんやで・・・勇者やのワ。 」






 

 

 

エクスカイザー  勇者エクスカイザー(だそうです)

 

 

 







 ・・・とかいうスレちがい・人間交差点 が両者の間であったようですが、もう知ったこっちゃありません。







 最終的に純が 「 auに 液晶が死にました ってウンコ持って行ったら ポリ呼ばれるでオマエ





と言って狂ったように笑っていたので、竜は釈明を諦めたようです。






 ・・・このようにして初夏と呼ぶにはあまりに暑い ある日の午後は過ぎていったのですが、まあだいたい毎回こんなカンジです。




  しかし何も一回目からこんな話をする必要は無かったですね。自分でもビックリ
 










 私たちは 暑すぎた初夏の日とパチンコ屋を愛していました。